擁壁のある土地は大丈夫? | CoCoDA – BLOSSOM DESIGN-

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2023.03.08

擁壁のある土地は大丈夫?

ブログのご訪問ありがとうございます。
ブロッサムデザイン株式会社の代表:中濱と申します。

まずは、私の不動産経歴からお話します。

20代から30代は不動産仲介の会社で宅地建物取引士として「不動産売買」に従事し
その後、建築設計事務所にて「注文住宅のための土地探し」と「建築設計と施工監理」にたずさわってきました。

不動産仲介では、道路面と建物地盤面に高低差のある土地や、そのような中古戸建をあつかうこともありました。
道路から高低差のある土地には、「壁」が存在します。

そう、その壁こそ今回のテーマ。「擁壁」です。

今回のテーマ「擁壁」

私がまだ知識・経験の乏しい20代。

「擁壁」のある戸建や土地は「景色がいいな」とか「掘こみ車庫は高級感がある」など
明るく考えていた中でおきた1件の大きなトラブルの話です。

絶景の古家付き土地


神奈川県在住の男性から、『相続取得した「神戸にある実家を売却したい」』との相談がありました。
その場所は、山間の傾斜地・高低差のある”ひな壇”のようになった昭和の造成住宅地。
高低差の間には間知石(けんちいし)という擁壁がありました。

間知石とは、花崗岩などの石材を約30cmの大きさで四角錐状に加工したもの。土を留める擁壁に使用される。

住宅の状態と絶景の魅力

住宅密集エリアで、建物もかなり老朽化しており、長らく空家で放置されていました。
風雨で屋根も壊れ、雨漏り、壁のひび割れ
室内は、家財に埃がつもり、庭もうっそうとしていて、印象は悪いものでした。

ところが、とても大きな魅力があります。 
その家の前に立つと、南側に神戸の海を臨む眺望は、まさに絶景だったのです。

既存不適格※の擁壁

※既存不適格擁壁とは、法令の改正により基準に合わなくなった擁壁のことです。 既存不適格擁壁というのは、法令等が改正されることにより生じる問題で、既にある擁壁のうち、改正後の新しい規定に適合しないものをさします。

媒介をお預かりしてしばらくすると、近所の年配ご夫婦(Aさま)から購入希望をいただき
「絶景を楽しみながら、仕事・書斎の空間としてセカンドハウスを建設したい。」とのこと。

早々に契約いただき、お引き渡しもスムーズにできました。
引渡しの後、Aさまが建設会社に相談していると、高低差にある間知石(けんちいし)擁壁について
想像以上に問題がわかってきました。

既存不適格である旨は、もちろん売買契約の際に書面で重要事項説明をしていましたが
想像以上に高額な擁壁工事になることが問題でした。

もうひとつの擁壁

さらに、土地上にあった古家を解体撤去すると
解体前にはAさんがあまり意識していなかった裏側にも同様の擁壁があり
その擁壁は裏側のお宅の所有権となっていましたが、この隣接地擁壁も既存不適格。
対処方法は当時この3つでした。

① 裏側隣地所有者にお願いして、問題の擁壁を隣地所有者の費用負担で作り直してもらう
② ①が無理な場合、裏側隣地の不適格擁壁と新築建物の間に、Aさまの費用負担で新たな擁壁を築造する
③ これから建設する建物自体が土留めの役目をできるような、鉄筋コンクリート造の強固な建物を建築する

↓結果
①隣地所有者から断られ
②も隣地崩落に備えた擁壁を自地内に築造する心理的な問題と多大な費用発生に却下され
③を選択するかどうか悩むAさま。

当時、不動産仲介業者としての説明 

当時、私が勤務する仲介会社で作成し、売買契約前にAさまに行った「重要事項説明」では

・本物件敷地の擁壁が既存不適格であること
・隣接する敷地に高低差があり、その高低差には既存不適格の擁壁がある
・条例により隣地所有といえども、隣地の既存不適格擁壁によって本物件敷地に制限がある

と記載され、これら問題に対する責任や費用負担は買主が負う旨が明記されており
宅建士であった私は、その説明をしていました。

じゃあ問題ないのでは? そうではありません。

何が問題かと言えば、私は説明を読み上げただけで、その意味の理解が乏しかったのです。

つまり、Aさまとの面談時、新居への要望を聞いているにもかかわらず
それに対して具体的にどのような問題が生じるのか説明ができず
「擁壁はやり直さないといけないので結構お金かかりますよ」程度の話しかできなかったことです。

購入前のAさまは、建築会社への相談が契約行為として進んでいなかったため、建築会社も現場を見ないで擁壁については”一般的な擁壁建造金額”として説明しており
それが結果、千万単位の追加予算となりAさまは身動きが取れなくなったのです。

当時の状況、責任は誰に?

・仲介会社としては、適切な既存擁壁に関する説明内容をAさまに交付し適切な面前説明もできていて、宅地建物取引業法で規定された説明は十分なされているとの見解。

・建築会社側は、土地購入の判断時点ではAさまは初来場程度の初期段階であり、資料も示さない中だったため、その説明責任義務はない。

・売主も瑕疵担保責任(現行法だと「既存不適格要件」)にかかわる”売主責任”には該当しない。

結局、Aさまはご自身で解決するしかなくなりました。

当時の私は、Aさんの計画を事前に聞いている一番身近な専門家であったハズ。
しかし経験不足ゆえに、建築側の知識がなく、不動産仲介業の領域のみで説明し、古家解体後の裏側隣地の擁壁に関してのリスク説明はできていませんでした。
私自身の意識およばなかったため、ただ会社が作成した書類にそって重要事項説明したにすぎませんでした。

計画がとん挫した古家のその後

当時のAさまの不安や苦渋は計り知れません。

私がAさまの不安・苦渋を共有することしかできない5年ほどの歳月には建築計画はとん挫したままでしたが
最後はAさんから売却依頼をいただき、誠心誠意売却のお手伝いをしました。

結果、マーケットの好転もあったので金銭上の痛みはなく、解決したものの。。。

眺望の良いところがメリットだったが…

伝えたいコト

「既存不適格擁壁」「擁壁」とインターネットで検索をすれば、たくさん有益な情報を見つけることができますので、それらについては割愛します。

私は、一般の方が土地購入してマイホーム建設を検討する際、「専門家意見をしっかり聴くことが大切」と伝えたいのです。

宅地建物取引業法を主体として行動する仲介会社、建設業法を主とする建設業者、建築士法を主とする建築士、同じ不動産の説明でも重複しない部分があり、その説明の中身には大きな差があります。

たとえば、今回のようなケースで誤解を恐れず書くと、
仲介会社は基本的に「既存不適格であること、対策の費用負担とその責任は買主であること」を書面で説明するだけです。
もし施主が、この時点で建築士に相談できたのなら、建築関係法令全般の知識をもつ建築士が、法的な見解と解決案を提示してくれるでしょう。
さらに建設業者にも相談すると、「具体的にどのような工事で〇〇〇〇円が必要で工期は〇〇日程度」と判断してくれます。

ここで初めて全体像が見えてくるわけです。

当時20代の私は、建築や関連法規に係る専門的な基礎知識がまだまだ乏しかった。
また、それぞれ専門家の意見を集約して判断すべきことをアドバイス出来なかった。
ここが問題でした。


仲介会社の宅建士の意見だけでは全体をクリアにできません。
むしろ建設業者ならびに建築士の総合的な意見をもらい、多角的に判断することが重要です。

土地探しの際にはぜひ、ご留意ください。